「誰も来ない日も」町営の温泉施設10カ所、赤字で苦境

岩手県の温泉施設が赤字で毎年町予算を持ち出しているそう。

 町内10カ所の施設は赤字続きで、ここ5年間の町予算からの持ち出しは総額6億6千万円に上る。

そのうち6施設は、町が主要株主になってる株式会社西和賀産業が運営している。代表取締役社長は細井洋行氏。西和賀町の現役町長でもあります。

なぜこんなに温泉施設を作ったのか?

「東北有数の温泉郷」が枕ことばの同町は湯本、湯川、巣郷など10カ所ほどの温泉地がある。町営の温泉施設は、多くが合併前の旧湯田町が進めた「お湯~とぴあ」構想などで、80年代後半から2000年代初めごろに建てられた。

いかにもバブルの箱モノ構想ですね。正直、東北には西和賀湯田町)よりも有名で大規模な温泉地はたくさんあるわけで、地域を愛するがゆえに身の丈に合わない開発を進めてしまったことが今日の赤字に続いているのでしょう。

現在、東北屈指の温泉郷である鳴子温泉ですら廃墟が目立つ状況です。湯治の名残とインスタ映えする秋田の乳頭温泉はインバウンド需要などで賑わってましたが、旅行の選択肢が幅広くなっている中、東北の山奥に温泉施設を置いただけで人は呼べませんよね。

なお、現在の町長さんはちょうど2000年に湯田町の町長になられたので、恐らく「お湯~とぴあ」は前任、またはそれ以前の町長さんの構想だと思われます。

だが、近年は赤字が続く。町営10施設を合わせた13~17年の運営費は年間平均2億1430万円。入湯客からの使用料収入は平均約8300万円に対し、維持費や指定管理・委託料などの町の持ち出しは毎年平均1億3130万円になっている。

 町観光商工課によると、00年ごろまでは公営の温泉を中心に50万人近くが日帰りで訪れていたが、県内外で温泉施設が出来た影響で来訪客が減り、最近5年間の年間平均利用者は28万9千人に落ち込んだ。

 00年ごろまで50万人で、現在は約30万人近く。30万人でお客さんからの使用料収入は約8300万円ということは、50万人を維持できていたとしても約1億4000万円にしかなりません。運営費が約2億1400万円だとしたら、結局7400万円赤字が出続けることになります。

町営または三セクの温泉施設は「町民の福祉」という側面もあるので、単純な評価はできませんが、それにしても作りすぎの印象を受けます。

いつから問題視されるようになったのか

2003年に行われた、旧湯田町沢内村の合併構想の懇談会の議事録を見つけました。すでにこのころから湯田町コストセンターは温泉だと記載されています。なお沢内は病院だそうです。

http://www.gappei-archive.soumu.go.jp/db/03iwa/0024nisi/nini/pdf/yu_kondan.pdf

Q.現在両町村の借金はどれくらいあるか。

A.平成13年度末で湯田が74億、沢内が88億円。

 両町、どちらも4000人弱の町(村)です。4000人弱の自治体が、70~80億の借金を背負っている。どちらの自治体も借金抱えて合併特例法に乗っかろうとしたのが西和賀町の起こりです。

議事録を読んでみると、「交流がある町ではないし町民性も違うから合併は不安、病院も下水道も道路も整備してほしい、でも医療費は10割を維持してほしい、お金がないなら職員の給料を下げればいいじゃない」など、当時合併に関わっていた方の心情を思うと切ない気持ちになるご意見が多数見られました。

堅調なお隣さんの北上市との合併の声が散見されますが、「将来ある金持ちのお嬢さんが、借金持ちの貧乏人と結婚するわけないだろ!」という職員の方の心の叫びが聞こえるようです。ここには、高齢化とともに人口は減り続け、有望な産業も観光資産もなく、出口の見えない地方自治体の闇が詰まっています。

 

2003年にはすでに問題視されている温泉施設ですが、旧湯田町の特徴を象徴する施設であり、住民福祉であり、そして観光への影響もあることから、そのまま赤字を出し続けた。そして15年後の今、老朽化による維持コストがかさみ、いよいよ抱えることが難しくなったということでしょうか。朝日の記事はまるで最近苦境に立たせられたかのように書いていますが、そもそも見えていた結果だったということですね。